「建物の長寿命化と外断熱」 工博 笹川和郎
1.外断熱・緑化・免震構造の3点セットの勧め
日本の住宅の平均寿命は26年との統計資料があります。
欧米の住宅の寿命は長く、英国を例にとれば100年以上の家も稀ではなく、お化けの出ると噂される家は資産価値が高いと言われています。
日本では不動産売買の場合には価格は土地代のみ、上物は撤去費用が掛かりマイナスの存在であります。日本のサラリーマンは一生に2回家を建てる場合も多いので、住宅ローン支払いの奴隷で一生を終わってしまう。この悲劇から脱して、家をストックとして価値を持たせるのには“丈夫で長持ちして環境に優しい家”を造ることが是非必要であります。
このためには次の3点が鍵です。
- 省エネで快適な室内空間と建物の骨組みを温度変化等による劣化から守る→ 外断熱
- 都会に緑を増やす。集中豪雨時の雨水が道路に溢れるのを防ぐ→ 屋上と外壁の緑化
- 大地震でも壊れない、人が家具の下敷きにならない家→ 免震構造
以上の3条件は“3点セット”として互いに助け合って建物の価値を高めます。
①と②は共に都会のヒートアイランド現象を防ぎ、環境に優しい町造りの条件です。
しかし、地震で建物が壊れては折角の努力が台無しです。免震構造は大地震時に建物が壊れなく、タンスが倒れてその下敷きになることもありません。構造骨組みは温度変化によって想像以上の大きな力を受けますが、外断熱は骨組みの温度変化を少なくします。温度により建物が変形して大きな力を受けることを避ける外国の規準では建物長さ20m程度毎に継ぎ目(収縮目地)を設ける事を規定している場合もあります。汽車のレールの継ぎ目を空けておくのと同じ考え方です。このように、外断熱は温度変化による建物の被害を守る働きをします。
「日本の常識は外国では非常識」ではありませんが、建物の省エネの世論が強い国では建物の外断熱は常識です。屋上や外壁の緑化も常識化している国がヨーロッパには多いです。
都会では超高層ビルが多くなっています。高い建物の窓から低い一般の建物の屋上が覗かれます。空調機等の機械が並んだ屋上は余り美しいとは言えません。建築家は建物ファサード(外壁)のデザインを気にしますが、屋上を上から見るデザインは考えていないようです。これからは、町の美観を考える場合に地上の目線だけではなくて、上からの眺めも美しくなければなりません。屋上の緑化はこの問題を解決します。
一時的な大雨で下水が溢れることは稀ではありません。屋上緑化で緑の面積を増やせば、土が一時的に雨水を貯め込みます。これによって道路に雨水が溢れるのを防ぎます。下水の排水能力を小さくすることも可能であり、雨水処理施設費用の節約にもなります。 外断熱の場合には、外壁の仕上げ材を比較的容易に取り換えられるので、将来のファサードデザインの変更に対応し易い構造と思います。
3点セットの各要素関連図
2.マンションの“環境性能表示”に期待する
東京都ではマンション1万㎡以上の場合に“環境性能表示”を義務づけています。
評価項目は4項目 (1)断熱性 (2)省エネ設備 (3)長寿命化 (4)緑化
各項目は3点満点、平成18年2月の時点で、満点の12点を獲得したのは1件のみです。
最近8点を取った売り出し中のマンションのモデルルームのセールスマンに8点の配点を訪ねましたが、このような制度があることも、これを表示する義務についても全く知らない様子でした。売る方も買う人も一生の買い物であるマンションの評価に環境性能は関係ないことを知りました。外国の例として、ドイツでは家の売買や賃貸の評価にエネルギー使用量が建物の値段と同様に重要視されています。
現在、この環境性能評価は1万㎡以上ですが、1000m2程度の建物の場合でも環境評価をすれば、一般の人の関心も高まると期待します。
環境性能評価とは別に、建物の耐震性の評価基準があります。建築基準法で規定している地震耐力の最低値の場合は1級、その1.25倍と1.50倍の耐力の場合を2級と3級としています。例のマンションの構造計算書偽造問題から100%以下の耐力の場合は大騒ぎしていますが、100%の場合でも建物が地震で壊れないことを保証している訳ではありません。構造計算書偽造問題から建築構造の重要性が世間に認められて、地震耐力1級の最低線から脱して、強い建物を造る要望があることを期待しましたが、2級・3級の地震に強い建物を要望する世論は残念ながら聞こえてきません。
環境性能評価で満点を採ったマンションのセールスマンでも、地震に強い建物の必要性は感じていないようです。環境評価は物理的に可能であるが、不確定な大地震で建物が壊れるのは“赤信号、皆で渡れば怖くない”との認識のようです。環境評価で満点の建物は大地震でも壊れない建物とすべきです。
東京都マンション環境性能表
| 建物の断熱性 | |
|---|---|
| 設備の省エネ性 | |
| 建物の長寿命化 | |
| 建物の緑化 | |
3.私の経歴と3点セットの関連
私は元来構造屋です。東京都立大学で建築を学び、日本では建物の高さ31mの制限が有った時代に鹿島建設設計部で計算尺と算盤を使った構造計算を始めました。優秀な先輩に恵まれ、特に関東大震災後、日本で耐震設計法の確立に貢献された工博・水原 旭先生は鹿島建設構造技術全般の指導をされておられ、私の生涯に先生としてご指導を受けました。
私の構造設計者としての仕事の大半は原子力発電所建物の設計でした。超高層ビルで知られた武藤 清先生が鹿島建設副社長として、原子力施設の耐震設計の指導をされていました。現在の耐震設計法は1981年に改正された所謂“新耐震設計法”によっていますが、武藤先生はそれ以前に超高層ビルの設計に新耐震設計法の考え方を取り入れていました。原子力設計の場合も同様です。時代を先取りした構造設計の成果を常に学会に発表していました。レベルの高い仕事に恵まれていました。
鹿島建設定年退職後、東洋建設の研究所長として免震構造技術の習得が主要な仕事でした。免震構造が建物の安全性を高めることを実感することが出来ました。 3点セットに免震構造を取り入れたのはこのような私の職歴からの発想です。
外断熱と緑化との関係を説明します。
東京オリンピックの頃、ヴィーン工科大学に留学。帰国後暫くして、旧東ベルリンに超高層ビルの事務所を鹿島建設の設計・施工で建てることになりました。当時、会社で唯一ドイツ語が出来る者として、構造設計担当で通訳も兼ねてドイツで仕事をしました。 その後、第3番目の職場として、鹿児島の第一工大・建築学科・教授に就任しました。ドイツでの仕事の経験から、ドイツ建築を研究テーマとしていて、“丈夫で長持ちして環境に優しい建物”について知りました。その内容は正に外断熱と建物緑化に集約されているとの結論を得ました。
卒論の学生を連れてドイツの建物の実態調査を行いました。その延長で現在もドイツ環境共生建築の調査を行って、今日に至っています。
“丈夫で長持ちして環境に優しい建物”のために、皆様のご理解とご協力を期待します。
以上
- 名前
- 笹川 和郎
- 東京都府中市在住
- 経歴
- 昭和30年 東京都立大学工学部建築学科卒、鹿島建設入社・設計部構造課勤務
- 鹿島建設原子力設計部長、東洋建設技術研究所長、第一工大・建築学科教授歴任
- 現在はKS建築構造・環境コンサルタント主宰, 裁判所の建築鑑定人と建築専門委 員
- 建築構造・ドイツ現代建築関連の論文・国際学会における発表等多数
- 鹿島建設原子力設計部長、東洋建設技術研究所長、第一工大・建築学科教授歴任
- 著書
- 初学者のための建築学入門(鹿島出版会)、構造物の弾塑性安定応力(理工学
社)他
- 特許考案多数
- 工学博士 一級建築士
- 特許考案多数
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投稿者 sotodan : 2007年03月05日 10:00
