ハンス・エーク日本セミナーPartⅡ ご報告

ハンス・エーク日本セミナーPartⅡ ご報告
セミナー司会進行 NPO法人 外断熱推進会議 専務理事 宮坂 幸伸

開催にあたり
本日は平日でお忙しい中を、私どもが開催を致しましたハンス・エーク日本セミナーにご参加をいただきまして心より感謝を申し上げます。私は本日の司会を務めさせていただきますNPO法人外断熱推進会議の専務理事をしております宮坂と申します。
セミナーに入ります前に先ず主催者として一言、今回のセミナーの主旨などご挨拶を申し上げます。

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セミナーの主旨
既に皆様ご承知のように今回のセミナーでお話をいただくハンス・エーク氏は、友人の地理学者に「地球上の人間の営みのすべてはりんご(地球)の皮のような中で行われている」と、地球環境の危うさについて触発を受け、以来環境に配慮した建築を追求し、ついには暖房のためのエネルギーを全く要しない「無暖房住宅」を作られたスウエーデンの建築家です。こうした業績はスウエーデンではもとより各国から多くの賞を受賞されています。2003年には環境分野のノーベル賞といわれるイエテボリ市の環境賞を、そしてこの度は愛知万博を記念した「愛・地球賞」を建築部門で受賞されておられます。

後ほどご本人から色々なお話があろうと思いますが、この無暖房住宅は、環境に良い建物を造る為に様々な試行を繰り返した結果、複雑なメカニズムから脱却し、一方で外気の影響を排し、他方「家そのものの熱の損失を防ぐ」という極めてシンプルな発想、建築哲学から造られたものです。断熱、気密、高性能な窓(開口部)、熱交換がその全てと言っても過言ではないと思います。

 なぜこのようなことを最初に申し上げるかと申しますと、今回のセミナーで私どもが最も重視をし、また期待を致しておりますのは、こうしたハンス氏の建築に対する考え方の底流に流れるものを、参加していただいた皆様方にしっかりと受け止めていただければ、と考えているからです。それは地球環境から住まいの環境にまで至るあらゆる環境を守るということは、如何にエネルギーを使わないか、ということと全く同義語であるということです。

京都議定書
 ところで、今年の2月、地球温暖化を防ぐための京都議定書が発効したこと、わが国は1990年比で2010年までに6%の温室効果ガスの削減義務があること、などは皆さんご承知のことと思います。温室効果ガスはCO2の他にもメタン、フロンなどがあり、世界全体ではCO2が3分の2を占めています。 ところがわが国の場合は世界でも最も先進的な環境技術によってメタン、フロンは大きく削減され、その結果わが国の温室効果ガスの95%がCO2ということになっているのです。

 つまりわが国の温暖化ガス削減はCO2の排出を如何に少なくするかということなのです。これはエネルギーを如何に効率良くするか、クリーンエネルギーに転化していくかということです。GDPあたりのエネルギー消費量を1998年で各国と比較して見ると、日本が96、ドイツ135、フランス155、イギリス195、アメリカ272、となっています。
 日本と比してドイツが1.4倍、アメリカは2.8倍です。わが国の省エネ技術の高さを示している数字ですが、これだけの技術、産業界の取り組みがあってなお、CO2の排出は2002年度では1990年比11.2%も増えています。

 また、住宅におけるエネルギー消費に由来する家庭部門の排出量は1990年比で28.7%増加しており(全体の13.3%)この分野の一層の省エネ、クリーン化による抑制、減量が今後のわが国全体の削減の行方を左右するものと言えます。

 しかしここで一つの例を示してみたいとおもいます。CO2削減のための大きな取り組みとして各国が自然エネルギー、風力発電に取り組んでいます。まだまだシェアは小さいものですが、こんなことが起こっています。イタリアですが、今まで京都議定書実施手段としての新エネルギーとして唯一風力発電が予定通りに増大をしていましたが、ここ2~3年前から景観問題の為に一部環境団体が設備設置反対運動を起こし、建設が止まるということになっています。他の地では景観の他にも騒音、渡り鳥への被害などが指摘されている例もあります。

 これは一例ですが、つまり、クリーンエネルギーも環境という意味では限界があるということです。これはCO2排出という意味では最もクリーンであり、効率的である原子力発電についても同様です。

 つまり地球環境を守るということは、究極的には最低必要なものを除いてはエネルギーを使わないということなのです。18世紀からの産業革命を経て、資源やエネルギーの大量消費によって豊かさ、便利さ、効率を飛躍的に高めてきた私たちの歴史、ライフスタイルとは発想を変える必要があるということです。

優先されるべき課題
 さて、私ども外断熱推進会議は、省エネ、省資源、健康などについて、RC躯体の建築にあっては外断熱工法が最も有効であるということがきちんと学問的にも建築物理学で実証され、欧米では基準とされていることから、その正確な工法の普及、拡大を図る目的で設立をされたNPO法人です。外断熱の具体的説明については後ほど堀内からお話をさせていただきますが、今日は行政の方々もお見えですので、この工法の普及が、わが国にあって地球環境への環境負荷を少なくし、住宅・建設の政策にあっては優先されるべき課題であるということについて、若干触れておきたいと思います。

 地球に優しい建物とは人(ひと)に優しいということでもあります。詳細は省きますが、省エネ、省資源と共に健康、換言すれば住環境という要素が外断熱工法の優位性として挙げられます。耐久性のある建物は当然省資源につながりますし、ひいては街並み・景観への配慮へとつながります。長く、場合によっては何世代も住む状況はコミュニティーの成熟も不可避とすることでしょう。

 住環境という観点からは、結露・カビの発生を防ぎ、また各部屋全体が同じ室温を保つことからヒートショックを防ぐことにもなります。少子高齢化時代が招来し、高度成長人口増加の時代が転機を迎える中で『先ず住まいの確保』から、快適な、健康に配慮された住まいが求められているのではないでしょうか。量から質への転換ということです。
イニシャルコストが少々高くても、ランニングコスト、ライフサイクルコストを考えれば十分まかなえるのです。

 また、わが国は地震・水害など有数の自然災害国です。こうした災害が生じた時、避難場所となるのは学校や公民館などの公共施設です。そこでライフラインが復旧するまでのことを考えてみて下さい。夏は冷房がとまり冬は暖房が止まってしまいます。一番の被害者はお年寄り、病人、幼児という弱者です。外気の影響を遮断する外断熱が施されていたらライフラインが復旧するまでの間、一定の環境は維持されている筈です。


建物再生の『標準仕様』
 こう言ったからといって、何も闇雲に既存の建物、施設を外断熱工法で建て替えろというのではありません。新しく建てる以外に、数多くある既存のものを外断熱改修すれば良いのです。行政が直接かかわる自治体住宅、公共施設こそ優先順位が高いのではないでしょうか。ドイツなどでは既存の建物は原則として壊しません。改修をするのです。私どもは外断熱改修を建物再生の『標準仕様』とするべきだと考えているのです。

 ところで、外断熱、無暖房というと寒冷地のものという一種の思い込み、誤解があるようです。地域性ということが良くいわれます。年間を通して気温が22度といった、全く冷房も暖房も必要としない地域では、外断熱も無暖房も必要はないかもしれませんが、そのような地域は先ずありません。程度の違いこそあれ暑さ、寒さはあります。エネルギー使用による地球環境への負荷を少なくし、健康・快適な住環境を守るということを考えると、地域による違いはこの工法に何を足すか、省くかということであって根本は変わらないのです。

 古来、ヨーロッパでは『自然は征服するもの、コントロールするもの』という考え方で自然と対峙してきました。これに対しわが国では『自然と共生する、折り合って生きる』という考え方で全てが行われてきました。家について言えば、「家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる」(徒然草)として、温暖多湿で夏は亜熱帯化する日本の家は、夏を如何に過ごすか、風通しの良さを基本に造られてきました。冬は家族が集い、一つの暖をとるような住まいが普通だったのです。そしてそれは大切に長く住まわれるものも多かったのです。

 しかし、所謂近代化の進展と共に、とりわけ戦後の高度経済成長と軌を一にするように生活様式が変わり、建物も変化、室内環境を多くのエネルギーを使って支配、コントロールすることとなったのです。その結果が先ほども触れた資源・エネルギーの大量消費を招来しました。
 といって、最早単純に過去の自然と折り合う建物に戻ることは出来ません。資源・エネルギーの大量消費ではあっても、近代科学がもたらした科学技術を環境や人間の生活にとってプラスの方向で活用しなければなりません。

環境学者レスター・ブラウン
 アメリカの著名な環境学者レスター・ブラウンは、トヨタのハイブリッド車と同様の性能の車にアメリカの車を全部変えたら、ガソリンの使用量は簡単に半分に減らせると例をあげ、「このようなことを言うのは、現在の私たちは、変えなければならないことが多すぎるということを、京都議定書の目標が達成できない言い訳にしているとおもうからです。二酸化炭素の排出を一気に削減し、気候の安定化に向かって進んでいくための技術は既に存在します」と言っています。そして「科学技術が人類を救う」と主張しています。我田引水ではありませんが,私どもが推進しようとしている外断熱工法は,建築物理学に裏打ちされた建築分野の「科学技術」に他ならないのです。

 今までの環境を破壊することにつながったとされる科学技術の発展を、その使い方を変えればよいのです。ただ、ブラウンはこうも言っています。「今必要なのは、想像力とリーダーシップであり、それはまったく可能なことなのです」と。


ハンス・エークは
 ハンス・エークは今春の長野セミナーで善光寺を訪れた際、お寺の屋根の庇を指して、「日本のこうした建物の工夫は我々も大いに参考にした」と言われました。夏の窓ガラスの外に垂らす簾と共に、外断熱、無暖房住宅について夏の冷房負荷を軽減する知恵は日本の古来の知恵にもあるのです。

 長々と申して参りましたが、今回のセミナーを通して地球環境と建物の役割の大きさを考え、省エネ、省資源、健康な住環境、非常時の対応など、これからの時代に何が必要なのか、そしてその為にきちんと性能を発揮出来る断熱、気密などの必要性をご参加いただいた皆様方にご理解いただければ幸いです。

 最後に今回のセミナー開催に当りまして、ご後援、ご協賛を賜りました関係各位に心から感謝を申し上げます。ありがとうございました。

2005/11/17 (by Y.M.)

 


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投稿者 sotodan : 2005年12月05日 16:12