「今川祐二のハンス・エーク同行記」 第11回 札幌市セミナー
3月2日(水)
マイカーで、講演会場の札幌市コンベンションセンターに向かった。今回の札幌講演がハンス・エーク氏の国内最後の講演になる。来日して11日目、国内の3都市を廻り、無暖房住宅の講演を行ってきた。 今回の札幌講演は、他の3都市と異なり建物の断熱・気密無しには生活が成り立たない地域である。日本で一番断熱・気密を必要とする場所で、無暖房住宅の講演を設計者本人から聞ける事の意義は大きい。 スウェーデンと北海道の断熱・気密に関する実態の差を感じ取ってもらえば良いのだが。会場は、予想よりも盛況だった。
札幌講演開催は、講演総合スケジュールで最後に決まった開催地で、講演準備に時間が少なく入場人員の把握が出来ていなかった。
しかし、『無暖房住宅』のインパクトと、折からの『外断熱』の風潮との相乗効果でここまでの入場があったと思う。

講演中のハンス氏

講演中のハンス氏

札幌セミナー会場風景
講演が開会された。
プログラム
堀内事務局長 『ハンス・エークと日本における外断熱の現状』講演1 荒谷 登 北海道建築技術協会会長
『断熱から生まれるライフスタイル』
講演2 ハンス・エーク氏(通訳:友子 ハンソン)
『地球環境と無暖房住宅〜エネルギーを使わない暮らし』
討論会 北方圏の暮らしを考える
司会:石田 秀樹(北海道東海大学芸術工学部教授)
問題提起
1.友子 ハンソンさん(作家・スウェーデン在住)
『住いを大切にすること〜スウェーデン人の考え方』
2.藤本 哲哉(北海道地域計画建築研究所所長)
『外断熱建築設計の実際』
最後に会場との意見交換
の順で進められた。
荒谷 登 北海道建築技術協会会長は、
(1) 断熱は小さなエネルギーで穏やかな環境づくりができる。
高断熱が進むと
採暖→暖房→再利用熱暖房に変わり、
冷暴→冷房→冷忘となる。
(2)断熱は物が持っている特質を引き出す役目をする。
高断熱は、そよ風、熱対流換気などが利用できる。
これは、省→生エネルギーとも呼べる。
など、言葉でも文字でも解りやすい表現で高断熱の意義を
『ライフスタイルとリビングスタイル』と題して話された。

講演中の荒谷氏
続いて、
ハンス・エーク(建築家)
『地球環境と無暖房住宅〜エネルギーを使わない暮らし』
と続いた。(講演内容過去講演と重複のため、省略)
討論会
休憩を挟み、 石田 秀樹(北海道東海大学芸術工学部教授)の司会で討論会を『北方圏の暮らしを考える』と題して行った。冒頭、石田教授は、ご自身の自宅設計を披露し、高断熱とパッシブ換気による住み心地の良さやアレルギー体質のご家族に大変満足いく結果を話された。
しかし、壁300mm、屋根400ʔの断熱厚さも無暖房住宅の断熱厚さには負けましたと話し、会場の笑いを誘った。
次に、問題提起として、
友子 ハンソンさん(講演内容重複のため省略)と、
藤本 哲哉(北海道地域計画建築研究所所長)が、
『外断熱建築設計の実際』と題して自身の設計を
実例として講演した。

講演を聴くハンス氏と友子氏

藤本氏と石田氏
質疑応答
その後、会場からの質疑に応えた。Q:ハンス・エーク氏に日本公演期間の日本の建物の印象は
A:日本の建物は気密が悪い。
断熱が徹底していないので居心地が悪かった。
床と天井の温度差が、大きく床が冷たい建物が多かった。
パワーによる暖房方式で、暖房が効きすぎていた。
しかし、東京で見学したマンションは、私の考え通りの
施工をしていた。
日本にも良い建物が出来つつあると思った。
Q:ハンス・エーク氏に内断熱をどう評価するか、無暖房
住宅は北海道での可能か
A:ヒートブリッジができる内断熱は無駄だと思う。
無暖房住宅は札幌でも充分可能だ。
堀内事務局長も、『窓、換気装置を組合せで可能』と答えた。
北海道の質疑でも、無暖房住宅の断熱厚さと、北海道の現状厚さの違いが大きく、会場の質疑も断熱厚さをコストと
絡めるため、ポイントを絞り切れない感じがあった。
ただ、少なくとも無暖房住宅が実在し、スウェーデンでは19世帯が快適に無暖房住宅で生活している現実を知り、日本の次世代省エネ基準が如何に低レベルの基準であるかを会場の人達は感じたことだろう。
北海道よりも平均気温の高いスウェーデン南部地域で、真の高断熱、高気密を生活に取り入れ、快適な居住環境を得ている人々とそれを知らない北海道民に今後どの様に情報提供していけるか?北海道の住環境は、今後も低いままなのか。それは、我々業界人の肩に掛かっている事を強く感じた。
4都市講演の最後である、札幌講演が無事終了した。
全講演終了

ハンス氏を囲む打上げ参加者
夕食を兼ねた打ち上げを、ススキノの寿司店で行った。
堀内事務局長より、ハンス・エーク氏に労いの言葉があり、ハンス・エーク氏も、無事全講演を終えた安堵の顔があった。そして、今回の講演スケジュールが大変ハードであったこと。スウェーデンでの仕事が忙しく、今回の様な旅行はしばらく出来ないだろうとハンス・エーク氏は話した。
食事をしながら、スウェーデン人の考え方や、物事の取り組み方についての話題になった。
その中で、ハンス・エーク氏は、物を造る考え方について、次のように語った。
しっかりした基礎的な分野を開発し、頑丈な物を造る。簡単に壊れない、落しても壊れない頑丈さが必要だ。でもそれは、簡単な事ではないし、高度な精練された技術がいる。
それが、スウェーデン人のフィロソフィ(哲学)だ。
無暖房住宅について
次に、無暖房住宅の計画から実行までについて話してくれた。無暖房住宅は、計画段階に多くの時間を掛けた。熱ロスを最小限にし、エネルギー使用も最小にすること。無暖房住宅を造ることは、刃物の先に卵を載せるようなものだ。すごく大きなチャレンジだった。
イエテボリの最低気温−16℃で、熱を加えなくても良い住宅を目指した。大量の無暖房住宅建設を前提にしたので、今の技術と市販されている資材で造った。
現場責任者も早い段階から加わり、ハンス・エーク氏が現場員の教育を行った。職人達にも、この計画は画期的なものでデータ等も取られる建物と言う自覚を持たせた。
その結果、気密目標のスウェーデン基準の4倍を越え5倍の数値が出た。
日本のエネルギー対策について
日本のエネルギー対策をどの様に見たかの問いに。現状の日本は、エネルギーの90%を輸入に頼っている。日本は、エネルギー消費を減らせば、輸入も減ることを自覚すべきだ。
しかし、現状の日本は、極楽が永遠に続くが如く、毎日を今日が世界の最後の日の様に楽しんでいる。現状のエネルギーコストが、将来も続くことは無いことを認識すべきだ。統計では石油は、あと35年しかもたない。
中国やインドの人々が、ライフスタイルを現在の日本と同じにすれば、たちまち石油は減り10年位で枯渇するだろう。スウェーデン人と日本人に、大きな違いがあるとは思わない。今、日本がエネルギー政策を考え直さなければ、大変な事になる。キャンペーンをして、省エネルギーを呼びかけるべきだ。スウェーデンでも、ゴミをゴミ箱へのキャンペーンを3年間行い、成果を出した。
建物を外断熱化し換気も熱交換換気扇を使えば更にエネルギーを減らせる。また、改修工事が増え新たな産業が生まれる。断熱の根本は、熱の遮断なので、北でも南でも有効に使える。ドイツでは、パッシブハウスには、ローンの貸付金利を安くしローン期間を30年から35年に延ばす、優遇処置を取っている。
この様に、日本の取り組み方のヒントを話してくれた。
スウェーデンの木造住宅の耐用年数
スウェーデンの木造住宅の耐用年数の考え方はどの位か?ローンは40年で組めるが、途中で住み替えてローンも組みかえるのが多いパターンだ。
建物のメンテナンスは、
外壁のペンキ塗りは、 10年
家電品(冷蔵庫、冷凍庫) 20年
給排水管 40年
トイレの便座 20年
窓の取替え 40年
屋根の取替え 40年
部分的なメンテナンスを施し、建物は出来るだけ長く使う考えだ。
一つ一つの答えが、現在の日本と比べるとあまりにも遠い事の様に思える。しかし、それを知る事で次の方向が見え、取り組み方も解ってくる。背中を押される思いであるが、日本が行うべき事柄が、今回の講演を通してはっきりしてきたと思う。
<次号に続く>
| ←戻る | ↑ページトップ |
投稿者 sotodan : 2005年09月05日 00:45
