副理事長の抱負  田中辰明

お茶の水女子大学 教授 田中辰明

はじめに
2005年2月に京都議定書が発効した。温室効果ガスの排出削減の目標数値が先進国に義務付けられた。現在、温室効果ガスの一つである二酸化炭素が全世界で年間約230億トンも排出されているという背景がある。この状況が続くと、今世紀末には地球の平均気温が最大で5.8℃も上昇するという。

京都議定書では、2008年から2012年までに、先進国全体の排出量を1990年に比べて少なくとも5%削減(日本は6%)することを規定している。人口の集中した大都市では、建物の密集やアスファルト等の舗装面の拡大、消費エネルギーの増大によってヒートアイランド現象を初めとする熱環境の悪化が著しい。

こういう現象を抑止するには勿論、あらゆる面で省エネルギーは絶対に欠かせない事柄である。わが国で産業用に使用されるエネルギーは消費量が増大すれば製品コストにかかってくるので、コストの削減のために、自然に省エネルギー対策が進むが、民生用エネルギー消費は必ずしもそうではない。むしろ、わが国ではより快適な生活を求めて、またライフスタイルの変化に応じて昭和48年の石油危機の後から今日に至るまでエネルギー消費は増大を続けている。

二酸化炭素排出削減のために燃料電池が有効であるとして、経済産業省は平成17年度25億3000万円の補助を決めている。高効率機器の導入開発という点で期待はされるが、もっと単純でかつ効果の大きい省エネルギー方法、"建物の断熱化“にも力を入れて欲しいものである。

2.外断熱工法の特徴
コンクリート建築の外断熱工法には次のような長所がある。 (1)断熱材が建物躯体の外側にあるので、建物が服を着たようになり外気温度や日射の変動から保護される。したがって建物躯体にひび割れが入りにくい。 (2)コンクリートの熱容量が室内側に入るので、暖房が切れても急激に室温が変化しない。同様に夏季は冷房が切れても急激に室温が上昇することは無い。すなわち快適性に富む。 (3)室内から屋外にスムーズに水蒸気が抜け、壁体の内部に結露を起こすことがない。従って壁内結露を起こすこともなくカビが生えない。カビを餌として集まってくるダニの被害からも解放される。 (4)既存の建物に断熱改修を行いやすい。居住したまま断熱工事が可能なため、内断熱の内装工事のように壁紙の接着剤や塗料から出る揮発性化学物質からも解放されるなど。

欧州では殆どの建物が外断熱工法で施工されるが、我国では外熱で施工される建物は極めて例外であった。

ここの(2)で述べた「建築の熱容量」と言う文言はわが国のような木造建築から発達してきた熱容量の少ない建築になじんだ人には理解しにくいことである。熱容量の大きい建築は外気の影響を受けにくく、室内温度分布が均一になりやすい。人間の熱的快適性は単に室温だけでなく、湿度、室内風速、平均放射温度の影響を受ける。これらは物理的に計測可能なものであるが、その他に人間の着衣量(被服の熱抵抗)、代謝量(活動量)の影響を受ける。わが国では軽視されがちな平均放射温度、これが人間の熱的快適性に大きな影響を与える。すなわち外壁の一面に大きな単層ガラスなどがあり、冬季に外気温度が低ければガラス内表面温度は低下し人体から放射で直接ガラス表面に熱が奪われるので、室内空気温度は満足されるものであっても、不快と感じるものである。このように建築外皮に熱的に弱いところが生じると室温は対流により上部は暖かく、足元は低くという現象が生じる。足元が冷えるというのは不快であるので、居住者はどうしても室温をさらに上げようとし、結局エネルギーを多消費するという省エネルギーに反することを行ってしまう。

3.外断熱の省エネルギー性
外壁の外側に断熱を施そうが、内側に断熱を施そうが熱の通りやすさ、熱貫流率は同じであるから省エネルギーの観点から見れば同じであるという事を唱える人もいる。しかし、外壁は熱だけでなく水蒸気も同時に移動していることを忘れてはいけない。わが国の住居は外国に比べ、室内での水蒸気発生量が多い。たとえば、毎日入浴する習慣がある、厨房での煮炊きが多い、育児期にある家庭では室内で洗濯物を干す習慣もある、熱帯魚や観葉植物がある、また、暖房設備が完全でなく、室内でガスや灯油を直燃焼するような暖房設備(開放型のストーブは蒸気発生量が極めて多い)が使用されている場合もある。一方省エネルギーの為にサッシ周りの気密性は向上した。

この様なことから湿圧の高い室内から湿圧の低い屋外へ向け外壁を通して水蒸気が抜けていく。この場合外壁内の温度分布との関係で水蒸気圧が飽和水蒸気圧を超えてしまうとそこで、結露が生じる。内部結露と称するもので、壁体内が湿潤になり、さらに熱を通しやすくなり結露を促進させる結果となる。

冬季の場合を考えると、湿圧の高い室内から水蒸気が外壁を通して外部へ向かう場合、外断熱であればコンクリートの外壁は室内側にあるので、水蒸気はこれを抜け、断熱材も温度が低下していないので、さらに外側へスムーズに抜けていく。しかし内断熱の場合はコンクリートの外壁が外気温度に依存する。従って冬季は冷えており、湿圧の高い室内側水蒸気が室内側の断熱材を抜けたあと冷えたコンクリート躯体にぶつかることになる。そこで水蒸気が水滴に戻る結露現象を起こすことになる。実際このような事から壁体内結露が発生し、さらにカビ発生を起こした住宅は多い。

わが国ではシックハウスというと専ら揮発性有機化合物(VOC化合物)を問題としているが、欧州ではむしろカビを怖がっている。これは旧約聖書のレビ記「家屋に生じるカビ」としてカビの害が記されているような事からも明らかである。ツタンカーメンの墓を発掘した人々が大勢亡くなった事件があり、当時は「ツタンカーメンのたたり」と考えられたが、これも墓に生息していたカビの害にあったと考えるのが正当であろう。
わが国でも「きのこ工場」の清掃に当たった人が中毒で亡くなった事件があったが、きのこもカビの一種であり、生息条件は良く合致していることから有毒なカビが生えておりその害にあったと考えるべきである。したがって住宅や一般建築、特に身体を病んだ人が生活をする病院などではカビが生息してはいけない。

4.筆者の自宅における経験
筆者は1971年〜1973年ベルリン工科大学に研究員として滞在中に外断熱について研究調査を行い、帰国した。丁度帰国した年に第一次石油危機が起こった。政府は石油から自立してやっていけるようにとして「サンシャイン計画」という国家プロジェクトを立ち上げた。これは太陽熱で暖冷房、給湯が行える住宅の研究開発というもので、筆者もその研究に従事した。しかしこの研究はあくまで太陽熱利用の研究であったので、その実験研究が終了した3年後には解体されてしまった。したがって日本で初めての外断熱の耐久性などは実証されないまま研究は終了した。外断熱のように日本で知られない工法については日本の建築施工の専門家から多くの疑問が投げかけられた。

そこで、1981年に鉄筋コンクリートの自宅を新築した際に全面的に外断熱を採用した。その後何らの事故もなく24年間快適に過ごすことができた。外断熱工法には記述(1)〜(4)のような長所があり、24年の生活からこれを実際に体験することもできた。ちなみにここで採用した工法も当時ドイツで一般に行われていた工法そのもので、「通気層のない外断熱工法」である。

近年、わが国でも外断熱工法を試みる気運も高まりつつあるが、価格的な問題や設計経験がない、施工経験がないといった問題から必ずしも普及が順調ではない。筆者は外断熱の住宅に住むことにより良い思いをしたが、是非、世間の方々にも外断熱のよさを経験していただきたいと願う。普及が思うように進まないのに一つは価格の問題があろう。ドイツでの施工価格は必ずしも高いものではない。

政府は燃料電池が現在高いので、普及しないとして補助金を出すそうであるが、筆者の経験でも太陽集熱器、太陽電池に対しても行われてきた。その結果の普及はどうであったろう。もっと単純でかつ確実に有効な省エネルギー策である「外断熱工法」に政府も理解を示していただけたら日本の住宅はよくなると考えるものである。

5.外断熱工法のISO化
欧州では多くの外断熱工法が欧州の規格“EN“になっている。これは欧州の規格委員会CENで討議され欧州規格として成立したものであるが、多くの欧州規格はこの討議で同時に国際規格ISOになるのが通常である。しかし今回はこれが国際規格になっていない。断熱規格に関する国際規格委員会ISOTC163は平成17年10月3〜7日東京の日本建築センターで開催される。筆者も出席するので、外断熱に関する諸欧州規格の国際規格化を訴えていきたい。こうすることで、より正しい外断熱工法の普及がわが国においても進展するであろうと信じるものである。

参考文献
1) 田中辰明「外断熱工法の現状と展望」建材フォーラム2004年11月号、工文社 2) 田中辰明 「外断熱工法と省エネルギー」月刊建築仕上技術2007年6月号、工文社

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投稿者 sotodan : 2005年08月23日 02:32