スペシャル 小澤徳太郎
日本は廃棄物が蓄積されていく超輸入大国 閉じた空間の中で破滅しない社会に転換を
【この原稿は、(株)時局社ならびに小澤徳太郎様のご好意により、雑誌「時局」の2002年12月号から転載させていただいたもの です。】
| 環境問題は人間が引き起こしたもの。解決しようとすれば、人間の行動を どうすべきかを考えるほかない。資源やエネルギー消費の視点から経済活動 をとらえれば、日本は超輸入大国。このままいけば二〇一〇年には混乱が起 こり、二〇五〇年には大混乱が待っていると、環境問題スペシャリストの小 澤氏は警告する。 | ![]() |
小澤さんは長らくスウェーデン大使館で環境保護オブザーバーの仕事をしてこられましたが、それ以 前から環境問題を専門に?
- 小澤
いいえ、私がスウェーデン大使館で環境問題の仕事を担当したのは73年で、環境についての学問は まだどの大学にもなかった時代でした。しかし30年前というと公害の問題がありましたから、このまま行く と日本は大変なことになるんじゃないかと思い、外国になら学ぶところがあるかなと思って調べてみたけれ ど、なかった。
そうしたときに、スウェーデンが環境についての日本人スタッフを求めていて、現場に飛び込むのが一番い いと判断したのです。
なぜスウェーデンはそうした人材を求めたのですか。
- 小澤
72年に国連環境会議というものがストックホルムで初めて開かれ、その時、日本から大勢の公害患 者が「日本は公害で大変だ」と訴えに行ったんです。ほかの国では公害病というのはほとんどなかったものだ から、それを見てスウェーデンの人は大変驚きました。「環境問題が高じると、こういう人体被害が起きるの か」と初めて目の当たりにし、「もしこれがわが国で起きると大変なことになる」と。
というのも、既にスウェーデンは福祉国家となっていましたから、公害患者が出てくると、その補償をしな ければならず、予算がいくらあっても足りない。そこで日本とアメリカの大使館に環境問題の専門家を置こう と決めたわけです。
スウェーデンには環境保護庁という役所が既にあり、またスウェーデン人は基本的に英語がしゃべれますか ら、アメリカにはそこの担当官を直接派遣すればいい。しかし日本は非常に遠い国で、事情がよくわからない し、言葉もだめ。これは日本人を置かないとだめだろう、ということになり、たまたま私が選ばれたのです。
しかし、95年にその仕事を辞められます。
- 小澤
「こういうことをやろうと思っている。日本政府もきっと同じようなことを考えているだろうから、 その考え方を知りたい」というスウェーデンからの質問に対して、「こういっていますが、どうですか」と聞 きに行き、答えを返すという仕事をしていたのですが、90年代に入ると、次々に来る新しい質問に対して、 答えられない状態になったのです。
どういうことかというと、向こうは「このままエネルギーや資源を使っていったら大変なことになる。方向 を変えなければ」と、学者を動員していろんなことを考え始めていたわけですが、日本からの回答はいつも同 じ。そんな状況に、ちょっと嫌気が差したということもありましたし、「日本は大変な状況なんじゃないか」 という危機感が募り、それをちゃんと日本の人たちに伝えなければ、ますますひどい方に向かうんじゃないか と、独立する決心をしました。
スウェーデンという外からの視点で見ていたから、日本の現状がよく見えたと。
- 小澤
ええ。日本の物差しで見ると現状がよくわからないから、皆、何か不安がっているけれど、何もしな いわけです。けれど、外からの物差しで見ると、とんでもない状態。
80年代までは、日本の動きは非常に活発で、アメリカ、ヨーロッパを追い越そうとやってきて、追い抜い たと思った。ところが今はまた「日本は何をしているの?」という状態。 特に僕はたまたまスウェーデンから見ていたから、非常によく見えた。環境への取り組みでは、スウェーデ ンはまさに世界の最先端をいっていますから、一番上から日本を見ると、よくわかるんです。
日本社会の何が一番問題だと?
- 小澤
経済学という分野はすべてをお金に換算して考えますが、経済を支えているのはエネルギーと資源で す。それがあって初めて企業が、経済が動く。しかし日本の経済学者や経営者には、そのことに十分な理解が ない。そのため、将来の日本をどうしなくちゃいけないかが描けないということに、根本的な問題がありま す。
日本は、経済学者にいわせると輸出大国だという。確かに輸出額から輸入額を引くとかなりの黒字になりま すから、お金の流れで見ると、そうなります。でも、それではモノは正しく見えません。エネルギーから見る と、日本は超輸入大国です。
金額ではなく、物質の量で見る必要があると。
- 小澤
日本は外国から一年間にエネルギーと資源を含めて7億トンくらい輸入しています。そして、加工して 外国に出すのが約1億トン。 7億トンの輸入金額と1億トンの輸出金額を差し引きしても黒字になるような製品を作っているので、金額でみ れば黒字なのですが、物の流れでいくと、6億トンが必ず日本に残るという形になっている。それは廃棄物で残 る場合ばかりでなく、構造物になっていることもあるけれど、100年もたてば廃棄物になるかもしれない。
つまり、毎年6億トンもの余分なものが日本国内に蓄積されていく構造なんですね。
- 小澤
スウェーデンをはじめヨーロッパの国々は既にそのことがはっきりわかっているから、GDPは上げても、資源やエネルギーはできるだけ減らそうという動きをしています。
経済成長と、省資源・エネルギーの両立は可能だと?
- 小澤
経済成長にははっきりした定義があります。その国のGDPが前年に比べて上がれば成長。環境問題 を考えるとき、GDPの成長を止めろという議論がありますけれど、GDPは金の比率ですから、それは上が ってもいいんです。
二十世紀型の経済システムというのは、金額が上がるということは、すなわちエネルギーの消費量も増え、 資源の量も増えることでした。しかし二十一世紀はそうじゃなくて、GDPの数字は上げても、資源とエネル ギーの量は逆に、少なくしていこうとしているのです。
そして、ヨーロッパの国々は、実際にそれに取り組み始めたのですね。
- 小澤
ええ。ところが日本政府は、そういうことをやっていない。経済を発展させるには、エネルギーを増 やさなければいけないと、いまだに考えている。原子力、化石燃料エネルギーの上に、さらに自然エネルギーも増やそうとしているんです。
日本人も、個人レベルではわかっている人も多いと思うのですが、政策レベルでの動きが鈍いのはな ぜでしょう。
- 小澤
日本はこれまで、ずっとアメリカを手本にしてきましたから、二十一世紀を考えるときにもアメリカ を見てしまう傾向があります。ところがアメリカは広大な国土を持ち、資源もあって、人口も増えている。だ から、エネルギーと資源の問題に気が付きにくい。そうではない日本が、そうした国を手本として見ているこ とに大きな矛盾があります。 それでもアメリカがまだ救われるのは、いろんな意見の人がしっかりいて、ちゃんとわかる人がトップにな れば変わるというところ。ところが日本はそうじゃない。考え方が均一になっているために、だれがトップになっても変わらない。これは最悪の悲劇です。
経済学者が未来を描けないとするなら、何を指針に?
- 小澤
常識の範囲で考えれば、自然科学者は先が読める可能性がある。なぜなら自然の法則を見付けだして きた歴史があるからです。
私たち人間が、地球という金魚鉢のように閉じられた空間の中で諸々の活動をやっているのは間違いない。 資源やエネルギーはその星の中にあるのであり、遠い将来は宇宙空間に飛び出して行くかもしれないけれど、 少なくともこの50年くらいの間には、そんなことは考えられない。そうならば、どこかの国の人口が増える ということは、金魚鉢の金魚が増えるだけの話です。
自然科学者は、そういうたくさんのものを観察して、法則を導き出し、今起きつつあることを推測し、今後についても大ざっぱな方向性ははわかる。そうすると、次に重要なのは人間の行動をどうするかということ。 なぜなら、環境問題は基本的には人間だけが起こしたものだからです。そこで政治家がでてきて、自然科学者が提示した問題を解決するルールを作る。
72年のスウェーデンの国連環境会議も科学者が問題を提示したことに対しての政治家の集まりだったわけですし、92年のリオデジャネイロの会議も、今年8月のヨハネスブルクのもそう。
スウェーデンなどでは、そういう国際会議にでている学者たちがちゃんと国民に向かって、「いまこういう状況で、こういう問題がある。だから早く政治を動かさなくちゃ」と発言し、それで社会が動くわけです。それが日本ではない。
なぜでしょう。
- 小澤
国民性だとか、哲学がないからだとか、そういうことを言う評論家や学者もいますが、そういうこと を持ち出されると、そこで話がとまってしまう。だから、私はそうは思いたくない。
常に目の前の問題にとらわれて、そこから物事を広く見るのではなく、どんどん狭く見ていくことが問題。 そして「どうにもならない」思考停止に陥ってしまうのが、今の日本。でも、きちんと条件を設定すれば、日本だってやれるはずですよ。
一層のご活躍を期待しています。
小澤徳太郎
環境問題スペシャリスト
1973年2月〜95年6月までスウェーデン大使館科学技術部 環境保護オブザーバー(環境問題、エネルギー問題、労働環境問題 担当)として勤務、その後環境問題スペシャリストとして独立し、 三重大学、東京工業大学、静岡県立大学、日本女子大学などで教鞭を執りつつ、講演、執筆活動を行う。
主な著書に『二十一世紀も人間は動物である/持続可能な社会へ の挑戦 日本 スウェーデン』『文系のための環境論・入門』などがある。
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投稿者 sotodan : 2005年08月11日 02:20

