復 興 提 言 お茶の水女子大学名誉教授 田中辰明

復 興 提 言 お茶の水女子大学名誉教授 田中辰明


この文章は、3月23日の田中博士の緊急提言を加筆された文章です。

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この度の東日本大震災で被災された皆様に衷心よりお見舞いを申し上げます。また突然の自然災害で無念の内に亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げます。
筆者は以前から公表しておりますように、外断熱を施したソーラーハウスに30年以上住んでおります。この度の大地震以来少々厚着をして我慢しつつも暖房なしで過ごしております。そもそも筆者が書斎として使用している半地下室の部屋では従来から年間を通じて冷暖房無しで生活をして参りました。


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筆者が研究をしておりますドイツの建築家ブルーノ・タウトが高崎郊外の少林山達磨寺の洗心亭で鴨長明の「方丈記」を勉強し、その事を日記に書いています。この方丈記では1185年(元暦)の大地震の事が記されています。「山はくづれて河を埋み、海は傾きて陸地をひせたり」、そして旧約聖書コヘリトの言葉1-9に「かってあったことは、これからも起こる。太陽の下、新しいものは何ひとつない」(日本聖書協会、新共同訳)というのがあります。我々は知らないうちに昔起こった大地震・大津波の事を忘れ、構築された原発容認論に飲み込まれていたのです。

小生がやろうとした省エネルギー建築、太陽熱利用も少数派の意見として世間からはほとんど無視されてきました。そして太陽熱利用研究や断熱の研究には国家予算も殆ど付かない状態でした。

1973年(昭和48年)秋に第一次石油危機が発生しました。それまでは「消費は美徳」とも言われ、石油などは使い放題でした。この石油価格が急騰したのです。石油を使用して生産される製品はことごとく品薄になり、価格の急上昇が生じました。当時の日本政府は石油に依存しなくとも、日本国がやっていけるようにと「サンシャイン計画」という国家プロジェクトを早々と立ち上げました。筆者も太陽熱を利用して暖房、冷房、給湯ができる独立住宅の開発に参加することになりました。太陽エネルギーとは無尽蔵に存在はしますが、単位面積当たりでは極めて希薄なエネルギーであります。これを使用して暖冷房・給湯を行おうとすれば住宅自体を省エネルギー的に建設する必要がありました。当時建物に断熱をする習慣は日本にはありませんでした。


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筆者は1971~1973年までドイツのベルリン工科大学ヘルマン・リーチェル研究所に留学していました。当時勉強をし、町でもよく見かけた建物躯体の外側に断熱を行う「外断熱工法」をこの実験住宅に適用しようと考え、ドイツから資料や一部材料を取り寄せこの工事を行いました。しかしこの実験住宅はあくまで太陽熱利用研究が目的でしたので、その実験が行われ、データー採りが終了する3年後には取り壊されてしまいました。従って外断熱の耐久性などは検証されることもなく実験研究は終了してしまったのです。仕方がなく筆者が1979年に自宅を建設した際に外断熱の施工を行い、住まいながら実験を行ってきた次第です。その結果前述のように地震以来特に暖房もせずとも住むことが出来ることを確認したのです。ソーラーハウスとしても様々な工夫をしたつもりでした。その中でも維持が楽で、効果の大きかったものは外断熱、付設の温室、土の熱容量を使用できる半地下室、北側採光による照明エネルギーの節約、階段室を使用した煙突効果による自然換気などです。いわゆるパッシブ・ソーラーハウスの考え方であります。「原子力発電の大事故が発生し、今迄原子力発電は安全で二酸化炭素を発生させない素晴らしいエネルギーである」と言ってきた人々を「それ見たことか」と非難することは簡単であります。石油危機の後には太陽熱利用研究に熱心であった日本政府もその後は太陽熱利用には興味を示さず、予算もつけないようになってしまいました。太陽熱利用や省エネルギー建築の開発に熱心であった筆者らの発言力の弱さにも責任を感じています。しかし今迄原子力発電を推進しようとする力は今回の津波同様、大変大きな想定外の力を持っていました。


今回の東北地方の被害は全く想像を絶するものでした。東京大震災の後に後藤新平が帝都復興院総裁として大活躍したような後悔しないですむ復興策が必要であります。わが国では私有財産の自己管理責任が尊重されていますし、「公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法」という法律があり、「原型復旧」という大原則が適用されています。しかし津波の被害を受けた地域にこれを適用すれば、また忘れたころに大被害を受けることは当然であります。このような法律は見直しをすべきであります。津波被害を受けた土地には戸建て住宅の再建を許さず、集合住宅とし、これも津波の抵抗を避けられるように海岸線に垂直に立てるとよいでしょう。かつこの建物には外断熱を施すべきであります。今回の災害避難者も避難先で灯油が不足し、低体温症に悩む人が増えています。命を奪われかねない危険な話であります。そもそも東北の住宅は断熱が不足し、灯油で暖を採っていました。今こそ外断熱で省エネルギーを図るべきであります。そして低体温症から身を守る必要があります。



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法律改正の必要性に触れましたが筆者は住宅の24時間強制換気に常々疑問を持っていました。建築基準法が改正されわが国では2003年7月から新築住宅で24時間強制機械換気が義務付けられています。これは建材などに含まれる揮発性有機化合物による汚染を防止しようとする意図から生まれたものであります。一方原子力発電による余剰電力を常時使用してもらおうという意図も明らかなものです。今回の原子力発電所の事故により放射線が拡散する地域では「窓を閉め、換気をしないように」という警告が出ていますが、24時間機械換気と全く矛盾する話であります。換気は窓を開けるなどの自然換気に頼るのが本当で、どのようにうまく自然換気を計るか設計するのが建築家の腕でありました。最近は揮発性化学物質を放散する建材には規制がかかり、ほとんど使用されていません。24時間機械換気はアレルギー性疾患などに悩む患者がいてその希望によって設置すれば良いのであり、全住宅に強制する必要はありません。換気装置の運転による電気代は微々たるものであるという触れ込みで始まったのですが、実際にはフィルターの交換も必要であります。この費用はもとより、交換の日には人が住宅に滞在しなければならないのです。このような損失は全く考慮されておりません。当然節電効果も大きくなって参ります。

今回の地震による首都東京の被害は限定的でした。しかし東京にこのような地震が起きたら、日本国が沈没する可能性もあります。復興に向けて首都の機能分散も真剣に考えなければいけないでしょう。ドイツでは首都はベルリンですが、最高裁判所はカールスルーエ、発券銀行はフランクフルト、省庁も例えば防衛省はボンというように分散させています。復興には巨大な資金が必要なのは言うまでもありません。20年前に旧西ドイツが旧東ドイツを吸収する形で合併いたしました。そして旧西ドイツでは「連帯税」を徴収し経済的に疲弊していた旧東ドイツの復興にあてました。わが国では今までの災害復興にこのような税徴収を行ったことはなく、抵抗もあるでしょうが、日本国民の連帯感を口だけで言うのでなく実行するには良い方法と考えます。災害復興に自衛隊、消防団員の決死的な努力には敬意を表します。これらの費用は税金で賄われているのは当然です。今回のような国難が起きた際には、「国民の義務はなにか」という事を考えてみるべきです。まず「納税」です。国にお金がなければ復興はできません。節税の名のもとに行われている脱税行為は恥ずべきことです。税金が国民の考えるように有効に使用されているか、納税者は監視していく必要があります。しかし納税者一人、一人がそれを行う事は不可能でしょう。その一人、一人に代わって税金を国民のために使用する方針を立てているのが国会議員であり、地方議員であります。従って国民には税金を正しく使っていただく議員を選挙する義務があります。しかし最近の選挙はパフォーマンス選挙のようになり、投票率も大変低くなっています。これは国民が大切な義務を果たしていないことになります。


そして3つ目の義務はやはり「国防」でないでしょうか?国防と言うと敵国と戦争することを思い浮かべますが、決してそうではなく、地震、津波、原発事故、から国民を守ること、食物の安全を確保すること、鳥インフルエンザを初めとする感染症から国民を守ること全て国防であります。原発事故が発生するや、筆者の信頼していた在日ドイツ人は「この国に幸あれ!」とメールを残して国外退去してしまいました。結局日本の国は我々日本人が守らなければいけないのです。


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投稿者 sotodan : 2011年3月31日 15:22