住環境コラム Vol. 7 ゼロ・エネルギー・ビルをめぐる国際動向 アメリカ・EU・WBCSD 宮原博

今回は、「Vol. 6 ゼロ・エネルギー・ビルへの取り組み」 に引き続き、経済産業省資源エネルギー庁に設けられた ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の実現と 展開に関する研究会が11月にとりまとめた報告書 「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の 実現と展開について~2030年までの ZEB達成に向けて~」からアメリカ・EU・WBCSD (持続可能な開発のための経済人会議)関しての レポートをご紹介します。

アメリカ

1. ZEBの政策目標

エネルギー自立安全保障法(2007年)において、 以下を目的とする 「Net-Zero Energy Commercial Buildings Initiative」を規定しています。

  • 2030年までに、アメリカに新築されるすべての業務用ビル
  • 2040年までに、アメリカの既存の業務用ビルの50%
  • 2050年までに、アメリカのすべての業務用ビル をZEBとするための技術・慣行・政策を開発・普及する。

*ZEB:ゼロカーボン非住宅

オバマ大統領も、 選挙期間中に以下の目標をたてることを公約。

  • 2030年までに、アメリカに新築されるすべての ビルをカーボン・ニュートラル、ゼロ・エミッション化
  • 今後10年間で、新築ビル、既存ビルの エネルギー効率をそれぞれ50%、25%向上
  • 2025年までに、すべての連邦政府の新築ビルを ゼロ・エミッション化
  • 5年以内に、すべての連邦政府の新築ビルの エネルギー効率を40%向上

アメリカ合衆国エネルギー省(DOE)は、 2025 年までに市場で競争力を有する ZEBの技術開発を目指した 「ビルディング技術プログラム」を推進 (ZEHの目標年次は2020 年)。

アメリカの考えは、 ZEBの目標達成に向けて政府による 研究開発と規制強化をうまくバランスさせながら 進めていこうというものです。

*ZEH:ゼロカーボン住宅

2. ZEBに向けた研究開発予算

DOEは、7年前(2002年)からZEBに向けた 研究開発の目標を明確化し、 官主導で研究開発を進めています。

省エネ・再生可能エネルギー関連の2009年度予算は 約2,200 億円で、2000 年度に比して倍以上に増えており、 このうちビル関係の研究開発予算は 300億円程度となっています。(図-1)


図-1 アメリカの省エネ・再生可能エネルギー関連予算の推
3. ZEBに向けた重要技術

DOEのビルディング技術プログラムでは、 特に以下の研究開発に注力しています。

  • 照明(固体素子照明)
  • 外皮・躯体(窓、断熱材)
  • HVACシステム、給湯器
  • 総合的な設計・統合制御

図-2 アメリカで注力されている研究開発(例)

また、アメリカでは、今後スマートグリッド (情報技術を積極的に用いて、 電力の供給者と消費者のあいだの電力伝送における 課題を解決しようとする計画) の進展に伴い、設備・機器が外からの制御を いつでも受け入れられる状態(ネットワークモード) とすることが必要となり、待機電力消費が大幅に 増大する可能性が示唆されています。

4. 建築物の省エネ基準

アメリカでは連邦政府が規範となる 省エネ基準を策定し、州レベルで義務化しています。

非住宅建築物の規範的な省エネ基準 「ASHRAE Standard 90.1」(米国暖房冷凍空調学会)は 3年程度毎に改訂(最近では1999 年、2001 年、2004 年、 2007 年)されています。

「ASHRAE Standard 90.1」は定期的に基準強化が 図られており、2004年と1999年の基準を比較すると、 2004年基準に基づく一般的な住宅を想定した場合の エネルギー消費量は1999 年基準に較べ 10%程度強化されています。 (出所:アメリカ合衆国政府資料)

また、2007年と2004年の基準を比較すると、 2007年基準に基づく一般的な住宅を想定した場合の エネルギー消費量は2004年基準に比し 5%強化されています。 (出所:New Building Institute (非住宅建築物のエネルギー性能に関する専門組織))

5. ZEBに向けた今後の省エネ基準の強化

アメリカでは、イギリスのように、 いつまでにどれだけの規制強化を行うか という明確な予定は示していません。 しかし、これまでも建築物の省エネ基準は定期的 (3年程度ごと)に強化されており、 市場に対し中長期的な規制強化の 方向性は示されています。 2009年6月に下院を通過した ワックスマン・マーキー法案の中では、 法案成立時に「ASHRAE Standard 90.1」を 現行基準(2007 年基準)に比して30%強化し、 2016年から50%強化することとしています。 さらに、2016年以降も3年に1回以上は 基準を改訂することとし、改訂に際しては、 その時点で技術的に達成可能な最も厳しいレベルの 基準を採用することとしています。

カリフォルニア州では、連邦政府と同様に 2020年までにすべての住宅をZEH化、 2030年までにすべてのビルをZEB化する方針を 法律(AB1103)の中で掲げており、 規制強化のシグナルは明確に示されています。

6. ZEBのバウンダリー(範囲)

アメリカにおける現時点でのZEBの定義は、 建築物・設備の省エネ性能向上とオンサイトの 再生可能エネルギーを活用することとしており、 オフサイトの措置は排除されています。 ただし、アメリカ政府、国立研究所等との 意見交換においては、 都市部におけるZEB化の困難性から、 オフサイトにおける措置の活用を含め、 今後におけるZEBの定義の見直しの可能性が 示唆されています。

7. ZEBの実現可能性

DOEと再生可能エネルギー国立研究所 (NREL)は、2007年12月に、 ZEBの実現可能性について技術的検討を行い、 4,820の全米各地の既存ビルを2025年時点の 最新建築技術(Max Tech)で建て替えた場合、 棟数ベースで62%、延床面積ベースで47%が ZEBを達成し得るとの評価を公表しています。(図-3)


図-3 ZEB実現可能性の評価結果
8. ZEH、ZEBの実証

DOE傘下の国立研究所では、 同一敷地内に複数のモデル住宅 (ZEHに近い住宅、通常の省エネ性能の住宅、 改修した住宅)を建設し、様々な気候条件の下、 実測値を踏まえた省エネ効果や費用対効果が 評価されています。

建設費はすべて施主の負担で、 国立研究所が技術アドバイスだけ与え、 通常より50%省エネとなる新築ビルの建築や 通常より30%省エネとなる既築ビルの改修を進めるなど、 民間資金を活用した支援を行っています。 また、国立研究所は、運用段階の省エネも指導しています。


図-4 CAMPBELL CREEK のモデル住宅
9. 省エネ性能ラベリング:ENERGY STAR

ENERGY STAR は、環境保護庁(EPA)と DOEが共同で開発した、製品、機器、住宅、業務用ビルを対象とする任意の省エネ性能ラベリング制度です。

業務用ビルのENERGY STAR(2001 年導入)は、 実際の運用時のエネルギー消費をベンチマークし、 米国全体の上位25%に入るとラベルの認証が与えられます。 認証には、最低1年間の実績データが必要です。

ENERGY STAR の取得件数は、2007 年の1,500 件から 2008 年の3,000 件に倍増し、急速な普及を見せています。 ENERGY STAR の取得と不動産価値の上昇について 相関関係があるとの研究も報告されています (約3%の賃料上昇)。

カリフォルニア州では、2009 年夏期から、 建築物の売買・賃貸借に際して、 ENERGY STAR 制度に基づく省エネ性能評価結果の 提示を義務化しています。


図-5  ENERGY STAR のラベル
10. 建築物のエネルギー消費データベース:CBECS

DOEは、1979 年から、非住宅建築物のエネルギー消費関連データを定期的(4年程度毎)に収集し、データベース化(CBECS:Commercial Buildings Energy Consumption Survey)しています。

1回につき約8億円の予算をかけて、全米約6,000 の既築ビルを対象にデータ収集を実施。14 種類の建物用途について、床面積や建築年、断熱構造などの建築物の基本情報、燃料別のエネルギー使用量に加えて、営業時間や従業員数、省エネ機器の保有状況、コンピュータの保有台数など、建築物の使用状況に関するデータも収集しています。

データベースはウェブ上で一般に公開されているほか、業務用ビルのENERGY STAR のベンチマークにも用いられています。


図-6 CBECSの概要

欧州連合(EU)

2009年2月、欧州議会は気候変動に関する 将来の包括的な政策提案を採択しました。 その中で、「新規の商業・公共建築物については 2020年までにネット・ゼロ・エネルギーとする」との 目標を打ち出しています。

また、EUでは、2008年より、 建築物のエネルギー性能に関する指令(EPBD: Energy Performance of Buildings Directive)の 改正が進められており、その中でZEH、 ZEBに関する検討も行われています。

欧州委員会による改正案(2008 年11月)では、 加盟各国に対して、ZEHおよび ZEBの開発・普及に向けた国家計画の策定を要求。 欧州議会による修正案(2009年4月)では、 加盟各国に対して、2019年以降すべての新築住宅・ 建築物をZEH、ZEBとするよう要求。 最終的には、欧州理事会、欧州議会、欧州委員会の 共同決定により確定することになっていますが、 現時点(2009年9月)では見通しはまだ立っていない状況です。

持続可能な開発のための経済人会議(WBCSD:World Business Council for Sustainable Development)

WBCSDは、2006年3月に、2050年までに すべての新築建築物をゼロエネルギー化することを提言。

これを受けて、Energy Efficiency in Buildings (EEB) Project を実施(プロジェクト期間:2006~2009年)。本年4月、報告書がとりまとめられています。

6地域「欧州、米国、日本、中国、インド、ブラジル (世界のエネルギー消費の2/3を占める)」における 4 用途(戸建住宅、集合住宅、オフィスビル、店舗) について、シミュレーション分析を行い、 以下の最適なポリシーミックスを提案しています。

  • 建築基準の強化と透明性向上のためのエネルギーラベル
  • エネルギー効率化の投資促進 (税や補助金によるインセンティブ)
  • 統合的なデザインと革新の推進
  • 省エネルギー行動を可能にする次世代技術の開発と利用
  • 省エネルギーのための人材育成
  • エネルギーに関する意識向上のための活動

そして、6地域での業務・家庭部門の削減ポテンシャル(2050 年におけるBAU シナリオとの差) として、以下の試算を出しています。

  • 40%の省エネ:投資回収期間5年未満の対策を 講じた場合(年間で平均1500億ドルのコスト)
  • 52%の省エネ:投資回収期間10年未満の 対策を講じた場合(年間で平均3000億ドルのコスト)

また、日本のオフィスビルのケース・スタディも 実施しており、この中で投資回収期間5年未満の 最新の設備・機器を導入した場合、 現状より51%のCO 排出削減が可能と試算しています。

執筆:宮原 博(一級建築士事務所 宮原住環境研究所)

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投稿者 hpnew : 2010年4月20日 13:43