第4回欧州視察「ドイツ建築物理と外断熱の旅」(2004年8月18日~)報告

写真と解説PDF:建築物理と外断熱の旅 堀内正純(PDF1.3KB)

2004年8月18日から27日にかけて、ドイツの建築事情を視察する機会を得ましたので、ご紹介いたします。

NPO活動の一環として、国会議員、大学教授、弁護士に建築関係者らを含めて、総勢20名が参加いたしました。8月18日に成田空港を出発して、ミュンヘン空港を経由して、シュトゥットガルト、バーデンバーデン、ミュンヘン、ミルテンブルグの各都市に宿泊して、フランクフルト空港を経て、8月27日帰国いたしました。

ドイツではフラウンホーファー建築物理研究所、シュトゥットガルト大学等を訪ね、ドイツの建築事情の一端をお聞きし、ローゼンハイム窓の研究所やSTO社を訪ね、建築技術を見学し、ミルテンブルグでは1158年に建築されたホテルに泊まるという貴重な経験をしてまいりました。

フラウンホーファー建築物理研究所は、ヨーロッパにおける最先端の応用技術研究機構であるフラウンホーファーの一部門で、建築技術に関する基礎研究を実用化させる、いわゆる応用研究を行っており、そのための開発、試験、コンサルティング業務などを行う研究所で、20%が公的資金でまかなわれております。例えば、建築物の騒音制御、防音対策、講堂での聴覚条件の最適化、エネルギーの有効利用、照明技術、室内気候の問題(結露等の問題)、防風及び耐風対策、そして歴史的建築物の保存などの研究をしております。言い換えると、室内居住空間の快適性を追求し、建物の耐久性や、建物が人間に与える悪影響等を防止して、快適な居住空間と健全な社会資本の確立・維持のための研究を行い、これを各企業が実践できるよう補助する仕事をしているわけです。

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IBP フラウンホーファー建築物理研究所前にて(2004.08.19)

日本では、この分野についてほとんどゼネコンやハウスメーカー各社の自由な研究に委ねられていて、各社の研究を開示しこれを横断的に集約する作業というものがされたことがなく、ましてや公的機関が技術基準を確立したりすることなどなく、いわば民間に放任されている分野と言えるのではないでしょうか。あるいは、公的機関が関与しても縦割りの狭い専門研究に陥り、その成果が一般住宅の居住性確保のため活用されてはいないのではないでしょうか。結局、日本では、地震や火災等からの安全性に対しては極端なくらいに神経質で、行政が必要以上に関与いたしますが、これら一般住宅の耐久性や居住の快適性については総合的な研究が全くすすんでおらず、第三者機関(公的機関)による基準作りもされていないように思われ、ドイツとはこの点で異なっているという印象を受けました。

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その結果として、日本における住宅紛争は、問題提起型のいびつな形態の訴訟となっているように思われます。例えば、日照権の場合を例にあげて説明しましょう。日本では、日照が建物に、また建物に居住する人間の生活に、一体どのような影響を与えるのかについての科学的研究を経ることなく、ダイレクトに日照をありがたいものと崇め、これを奪われるという一方的な被害者意識だけで日照権訴訟が提起されて来たように思われます。しかし、建物の作り方(設計や設備等の仕方)を工夫することで、仮に少ない日照しか得られないとしても、その明るさを建物内に導入することは可能ですし、日照の熱(温かさ)を建物内に導入して活用することも可能です。つまり、日照権の問題は、被害者の住む建物の性能とも大いに関係している問題、と指摘することも出来るわけです。

フラウンホーファー建築物理研究所では、日照と言っても、このように良い面と、悪影響を与える悪い面とがあることを認識したうえで、どのようにしたら居住空間を快適にできるのか、そのためには最低限どの程度の日照を要するかなどを具体的に、そして場合によっては測定人間を使って長期に実験を積み重ね、平均人にとって必要な範囲などを画するべく、合理的な研究を続けております。ところが、日本では、前述したような感情的な議論に陥り、場合によると隣に高いビルが建つという景観に対する嫌悪の問題(都市計画への批判)をも含めて日照権が議論されるため、結果として、建物の居住空間はいつまで経っても快適とはならない、ということが出来ます。

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シックハウスの問題も同様です。今の日本のやり方では、建材のみに目をやり、余りにひどい量の悪性の化学物質を用いることのないようにしよう、という消極的な姿勢であり、問題の本質をつかまえていないように思えます。要は、居住の快適性を確保するにはどうすべきなのか。快適性を確保するために室の気密性を高めると何が起こるのかを議論すべきです。だとすれば、建材に用いる化学物質だけの問題ではなく、カビ・ダニについても、シックハウス問題としてこれを論じないわけにはいきません。また、水蒸気の移動に伴う弊害を除去するため「換気」を有効に用いる必要があるわけです。この点、フラウンホーファー建築物理研究所では建材の発する悪性物質についても、また、カビ・ダニがどのような条件で発生し、人体にいかなる悪影響を与えるのかについても、そして、これを防止するにはどのようにしたらよいのか等についても研究を行っており、特に室内外の温度差や湿度との関係で結露が発生したり、カビ・ダニが増殖するメカニズムを把握し、これら知識を住宅建設へと応用させて、快適な住まい作りに役立てようとしております。

建物の耐久性についての研究も盛んです。例えば、外壁が経年によってどの程度劣化してしまうのか、を実際に永い期間を経て実験しており、また、その場合に、外壁の色・素材・形状などによって違いが生ずるのか、その場合の劣化原因は何なのか、これを防止するためにはどのような工夫(材料、工法を含めて)が必要なのか、などを多角的に研究しております。そして、これら耐久性や結露防止に、そして省エネにも有効であるとして、同研究所でも外断熱による施工をすすめております。

その他にも、音や匂いの問題にも取り組んでおり、例えば建物内で音が反響しないような研究をしております。もちろん、日本でもコンサートホールの音響などについて研究しているとは思いますが、それを一般住宅へ応用したり、安価な材料や施工で簡易に行なえるようにするといったことは、余り研究がすすんでいないように思います。

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次に、シュトゥットガルト大学では、シュミット教授の講義を伺いました。同教授はベルリン工科大学のご出身で、ドイツ技術者協会の建築設備部会長の要職をも兼ねておられる方で、室内空間の空気環境の研究をしておられます。そのための一つの試みとして、低エネルギー住宅の建設についてのお話をうかがいましたので、ご報告いたします。

同教授は快適な生活が出来ることを前提に、予め建物で使用するのに必要なエネルギー量を算出して、基準作りをしたいと考えているそうです。そして、それに見合うエネルギー効率の良い建物を建てるべきで、それをせずにエネルギー消費を各家庭に任せて、これをたれ流させるのはよくないと指摘しておりました。

また、これを太陽エネルギーでまかなうといった代替エネルギーの研究も重要ですが、これには限界があり、正しい方向ではないと考えており、将来の目標としてはゼロエネルギーの住宅を多数供給できたらと考えているそうです(この点、日本はオイルショック以降、省エネとは名ばかりで、代替エネルギーを求めて原子力発電所の建設に邁進したことを思い浮かべ、ドイツとの違いを認識いたしました)。

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そのための試みの一つとして、3リットルハウス(低エネルギー住宅)の建設にとりかかったそうです。この企画は、もともと住宅供給公社が1930年に2階建て煉瓦積みの建物を24戸建設しましたが、一戸の間取りが50m²と(当時は標準だったのですが、今では)狭くなり、建物としての性能も劣悪となってきたため、これら中古住宅を低エネルギー住宅へと改修することになったそうです。2002年春にプランニングが始まり、2005年春で全ての工事が完成する予定だそうで、一部完成した部屋もあるし、改修前の部屋も見られるとのことなので、見学させていただきました。

改修の要点は、建物の外断熱化をはかること、窓ガラスを3重ガラスとすること、暖房については温水のパネルヒーターを用い、空気暖房と併用すること、冷房には地熱を利用した方法を採用することなど、随所に創意工夫を凝らして低エネルギー住宅へと改修しているとのことです。

次に、我々が訪ねたローゼンハイムにある窓の研究所(iftと略称)をご紹介いたします。もともとドイツでは、建物の開口部の性能の確保、躯体との納まり等を重要視して、それを専門に研究する研究所があります。それがiftです。ドイツでは省エネ基準値が定められているため、住宅が使用するエネルギー消費を出来るだけ減らそうとしており、それに有用な建物の外断熱化や開口部(窓)の高性能化に取り組んでおりますが、日本では建物施工業者やその下請けのガラス会社に全てまかされているため、外断熱建物も作られなければ、高性能な窓も作られて来ませんでした。その結果、「日本の全炭素ガス排出量のほぼ半分を建設関連分野が占めている」(山岡淳一郎編・著「イスト」2004年3月号より)といった状態で、地球温暖化防止のための施策が全くと言って良いぐらい、行われて来ませんでした。大いに反省すべき点であると認識した次第です。

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最後に、1158年に建設されたホテルに泊まってまいりましたので、その印象をお伝え致します。ここは日本で言えば、平安時代に建設されたホテルです。木や煉瓦、それに漆喰による建物で、この町全体が中世をそのまま残したような建物ばかりが並んでおりました。高台に残るお城は石造りでしたが、町はこのホテル同様に木組み建築の建物でした。ホテル内にはエレベーターが一機設置され、バス・トイレは水洗で、それなりに近代的設備を備えたホテルとなっておりました。各部屋は昔のままに配置されているようで、王様が滞在したと思われる部屋は広くて調度品も立派で、ベランダには庭園まで出来ており、バス・トイレでさえ大変に広いスペースをとっておりました。他方で、同行した家来が宿泊したと思われる部屋はその身分によって違いがあったようですが、狭いところは一流ホテルのシングルスペースぐらいの部屋だったようです。当日は、部屋割を無作為で決めましたので、当たり外れに一喜一憂といったところでした。なお、私は家来の中でも少しだけ上のクラスの部屋だったようで、可もなく不可もなし、ということでしょうか。入り口にはフリードリッヒ1世の絵が掛かっており、中にも大きな肖像画が掛けてありましたので、当夜は王様になった気分で眠りにつきました。

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こうしてドイツの建築事情を垣間見てまいりましたが、日本と大きく違っている点は、建物の耐久性に対する考え方が異なっていることです。一度建築された建物は、それがどのような建物であろうと(お城やお寺でなくとも)、その時代の施工技術や施工者の情熱、施主の思い入れなどが凝縮した歴史的に有意義なものであり、社会にとっても重要な財産なわけです。また、時代によってはその時しか手に入らない部材を用いている場合もあり、設備が古くなったとか、間取りが狭いなどの理由で簡単に全てを壊してしまう合理性はないと言えます。新しい技術や設備を古い建物に融和させて、よりすばらしい建物を築いていく努力の方が重要ではないでしょうか。 もう一点、ドイツでは居住空間の快適性の追求に力を入れております。日本のように気候温暖で、緑豊かな国土では、建物はせいぜい雨露をしのげれば良いと考えて来たのかもしれません。荒涼としたヨーロッパの国土とは異なるとの反論がされそうですが、オイルショック以降は日本でも高断熱・高気密の建物が作られており、今後はどの程度まで高断熱・高気密化を進めるのか、このことに伴う弊害についてはどのような解決するのか、研究する必要があります。 以上の問題意識を持って、8月27日成田空港へ無事に戻ってまいりましたので、ここにご報告いたします。日本の現状については調査不十分のため、誤った認識を有しているかもしれませんが、その点はご指摘いただければ勉強していきたいと思っております。ただ、ドイツでの印象を少しでも皆様に理解していただくことが出来れば幸いです。 なお、最後になりましたが、実にすばらしいメンバーの方々と一緒に旅行が出来、一生の思い出になりましたことを改めてここに感謝申し上げます。

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投稿者 hpnew : 2004年10月11日 03:02